コラム〔山本編〕
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vol.3 上海冷熱蹴反日
    〜上海人は冷静な目で反日を批判〜
作  山本 洋左右

 アテネ五輪、日本勢のメダルラッシュは愉快だった。それに比べサッカーアジア杯は日本が優勝したにも拘らず不愉快を感じた人が多かったと思う。
 重慶、済南、北京の中国人達の反日騒動を見て日本のマスコミは一斉に「日本軍の爆撃を今も忘れていない」とか「江沢民の進めた反日愛国主義教育」の結果だとか、果ては「所詮、中国人は民度が低い」と言った公人の発言を掲載する始末。
 北京や上海と言った大都市に支局を構えて定例会見や街中の取材しかしない特派員の彼らに真の中国を日本に伝える事など到底不可能なのである。
中国の人口13億人とした場合、日本の特派員が取材する対象は北京、上海、広州、杭州などに住む5千万人の中国人の動向に過ぎない。

 ここでは「反日」を「名目」に騒いだ地方に住む中国人の気持ちと上海人の気持ちの違いを記す事にしよう。まず、重慶、済南の反日行動の背景にあるのは、第一に富のチャンスが、自分達のところに回ってこない事への苛立ちである。
 地方と言えども、彼らは、上海や広州の市民の年収と自分達の年収が共産党の言う3倍どころではない事を知っている。
 その上、農民にだけ課せられる農業税が重く不公平なことも身に染みている。それだけではない。地方は学校の教師の給与も児童の親の負担となっている。それが負担できない学校では、児童が内職して教師の給与を工面しているのである。4年前、江西省の小学校で起きた爆破事故は児童が花火の火薬詰めをさせられている最中の惨劇で20数名の児童が命を落したが、これは、中国の貧窮地域で起きている一例に過ぎない。
 重慶や済南は農村ではなく都市である。しかし、そこは今や生産力も競争力も失った国営企業の城下町で豊になる唯一の手段である外国資本が何年待っても巡ってくる事のない置き去りにされた都市となってしまった。
 彼らは上海や広州や杭州の人々が外資によって豊になった事を知り、そのチャンスを何年も待っていたのである。
 収入格差が3倍を超えると社会不安の要因となると言われている。日本の場合、富裕層と中間層の下の層の年収格差は2.4倍である。韓国は3倍、中国、ベトナムも3倍と発表されている。驚くべき事に、日本はアジアで最も貧富の差のない国なのである。
 それでは中国の都市、階層別の年収を紹介しておこう。年収1万円(日本円換算)未満の極貧層(大半が農民)は共産党の発表で3000万人となっている。それが年収2万円未満とした場合、一挙に9000万人に急増する。
 次ぎに重慶と上海の市民の収入を紹介しよう。両市とも政府が直轄都市とする最重要年である。しかし、実態はまったく違う。錆びれた国営企業が主の重慶市民の年収は6〜7万円で、ボーナスもなく、退職金や年金も未払い、遅配状態、国営企業に金が無いのだ。一方、上海の場合、平均年収は30〜40万円、ボーナスも別途支給される。夫婦共働きではこの倍、外資系企業の場合は更に高収入となる。消費物価は日本の5分の1から6分の1である。
 さて、年収1〜2万円の農民、6〜7万円の重慶市民と上海市民の年収は、どれ位の差になっている事だろうか。
 こういう事実を丁寧に伝えずに、重慶の「反日」を日本軍の爆撃への怒りが背景にあるなどと、訳知りぶった報道したマスコミの責任は重い。一体、中国都市で日本軍の攻撃を免れた都市など何処にあるのだろう。中国の都市は全て日本軍の攻撃を受けたと言っても過言ではないのである。
                          

ここでは中国の現状をまとめておく
@中国で富の恩恵を受けているのは、政府、官僚、党幹部、高級軍人、高学歴の2千万人前後に過ぎない。
A9億人近い農民の平均年収は5万円以下で、税や耕作地の環境悪化で貧困層に陥る可能性がある。
B現金収入を求めて、臨時工として都市へ大量の農民が流入した為、農業生産は5年連続して減少している。
C急激な開発と発展で黄河、長江の水質悪化と水量低下が進んでいる。

こうした状態が改革開放以来20数年続いて来た事実を年頭に置いて、先の「反日」騒動を振り返ってもらいたい。そして、大会終了と共にその騒動が鳴りを潜めた事を。
 次ぎの頁では、上海の市民が「反日」をどう見たかアテネ五輪の日本金メダルを上海のマスコミはどう伝えたかを伝えよう。