コラム〔山本編〕
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vol.4 上海冷熱蹴反日 続章
作  山本 洋左右

  前章で中国の実情を長々と書いたのは日本のマスコミ報道では決して知る事の出来ない中国人の置かれている現実を知ってもらいたいからである。 この現実を知らなければあの「反日」を理解する事は出来ないのだ。

 本題に入ろう。
アジア杯決勝を生中継で観た多くの上海市民はまず「君が代」演奏の際の異常なブーイングに我が耳を疑った。と言うのも、中国当局は重慶、済南での試合の生放送を中止してVTR放送にした為、中身は試合のみで、スタジアムの不穏な動きは伝えられなかった。
しかし、上海市民の多くは口コミやインターネットでスタジアムの「反日」の情報は耳にしていた。それだけに上海市民はその情報を目の当たりにして「呆れ」礼を失した態度に「恥入り」「怒り」を禁じ得なかった。
 上海市民は何故、重慶や済南、北京の「反日」に嫌悪感を抱き口々に批判したのか?今度は1200万人上海市民の真の姿を伝えておこう。
 まず、上海も日本に租界として市北部を取られ、陸海軍の爆撃と侵攻を受け、 甚大な被害を蒙った屈辱の歴史を負った都市である事を忘れてはならない。 しかし、日中国交回復と共に上海はいち早く日本に目を向け、改革開放を機に 日本人と日本企業を受け入れ、日本に多くの人材を留学させたのである。 以来20年、日本に留学した上海人は20万人。上海在住の日本人は15万人。
日中合弁企業は8千社に達している。
これは日本人観光客、日本製品、コンビニ、回転寿司、ラーメン店などが街中に溢れ上海市民は今や“日本”と接しながら暮らしていると言っても過言ではない状況である。
日本との経済的な交流と人的交流によって確かに上海市民は豊かになった。
しかし、それだけで上海市民が「反日」を批判したのではない。上海市民は実は、中国最強のクラブチーム「申花」を地元に持っている事だ。
 この「申花」は半端なクラブではない。上海郊外に芝生のグランド11面。室内グランド1面を持ち、施設面積はACミラン以上の規模である。 つまり、上海市民はサッカー通なのだ。 だから、冷静な目で日本がアジアのどの国よりも実力が上である事を承知していたし、中田英、小野、中村俊の欧州トリオの情報にも詳しかった。更にトルシエからジーコに代わってより攻撃的なチームに変貌しようとしている事にも注目していた。だから“中国に勝ってもらいたい”という願いは他の地域の中国人と同じように持っていながらも試合の結果は冷静に受け止める事が出来たのである。
 上海には今も日本軍によって身心に深い傷を受けた人が多く居る。これを我々日本人は決して忘れてはならない。その思いを胸の奥にしまい込み訪れる日本人を温かく迎えてくれる上海市民の姿を見る度に「あー、この人たちは大人なんだなあ」と感心させられるのである。アジア杯決勝を観た上海市民は「反日」を批判しつつその一方で中国チームのどこが弱いのか?ワールドカップに出るには何が足りないのかを冷静に語っていた。
 ここまで書けば理解して頂けるだろう。先の「反日」は日中の問題ではなく中国の国内問題の巧妙なスリ替えなのだ。

 最後にアテネ五輪について中国の報道を紹介しておこう。まず、水泳の北島の金2冠を大きく伝えていた。アジアの選手が欧米の強豪に勝った事、日本の水泳陣の努力に比べ、中国の競泳陣は努力したのだろうか?と言った実に冷静に、公平に日本の活躍を伝えていた。そして中国留学で有名になった卓球の愛ちゃんも日本並みに詳しく伝えていた。アジア杯の「反日」騒動から2ヶ月足らず中国は元の姿に戻った。しかし、抱えている問題は何ひとつ解決していない。これから4年後の北京オリンピックを最優先に政策を進めるなら、再び何かをキッカケにした「反日」が噴出するだろう。
その時、日本のマスコミはまだ「日本軍の侵略」や「愛国教育」が背景にあると書くのだろうか?
 最後に我々日本人が見過ごしている点を付記しておく。
世界最大の人口国家中国、13億の彼らは4千年の歴史の中で今まで一度も選挙をした事がない民である。毛沢東もケ小平も江沢民も国民から選ばれた指導者ではない。それから4年後には北京オリンピックである。近代オリンピックが選挙制度のない国で開催されるのも初めての事だ。