コラム〔山本編〕
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vol.10 米メディアの限界、日メディアの鵜呑み
作  山本 洋左右


コラム10回目のテーマについて、あれこれ悩んだがやはり避けては通れないと思い
自己批判の意味も込めて米大統領選大接戦報道の誤報と顛末を取り上げる。
11月2日の投票日まで、日米のメディアが伝えた選挙情報は、
1 ブッシュ、ケリー両候補の支持率は全くの互角
2 争点は、イラク戦争の正統性とテロとの戦いの方法

結果はどうだったか
1 ブッシュ、530万票以上の差を付け大勝利
2 争点は、道徳と信仰心の軽重

結果から見ると、8ヶ月にも及ぶ大統領選報道は、大誤報だった。
米メディアは、何故有権者の意識を掴めなかったのか?
日メディアの特派員は、何を取材したのだろうか?
そして、私自身何故疑問を抱かずに原稿にしたのか?

以下は、私的に分析してみる。
まず、今のメディアは非常に幼児的である。
取材者に”あらゆる物を疑え!”と言う大人の意識がない。アメリカでは、
NYタイムスなど大手新聞で記事の捏造が相次いだ。
日本では、TVでヤラセが横行した。
更に、奈良の誘拐殺人事件の後に大阪で連れ去り未遂が4件も起きた!と
伝えた。
詳しく見ると、4件とも目撃者がいない、続報が一切ない、
こんな、あやふやな一報も今のメディアは、事件として堂々と伝える。
話を、大統領選に戻そう。
ブッシュ、ケリーのTV討論では確かにイラク戦争やテロとの戦いで
両氏は火花を散らした。
日米のメディアは、これに飛びついた。そして、イラクでの戦死者が1000人を
超えたことを結びつけて、ブッシュ再選の危機と伝えた。
しかし、TV討論の核心は、全く別の所にあった。
それは、ブッシュがアメリカ人の心に訴えた信仰と道徳への回帰と家族主義だった。
彼は、このテーマに多くの時間を割いてアメリカの進む先に人類の理想が在るかの如く
語りかけた。
これを、米のメディアはキリスト教右派の我田引水としてほとんど重視しなかった。
一方、ケリーは経済の建て直しでアメリカに再び明るさを取り戻そう、と訴えていた。
日本のメディアは、イラク論争の部分だけを取り上げ、ブッシュが負けたら自衛隊を
派遣した小泉首相も危ういと報道する始末。
しかし、米の有権者が討論で注目したのは、メディアが無視した信仰と道徳の下りだった。
530万票のほとんどは、アメリカがキリスト教の教えに忠実な国家であることを求めた
人々だった。その証拠に、プロテスタント右派のブッシュにカソリック教徒も多数投票する
と言う考えられない行動が起こったのである。
大統領選挙期間中の8ヶ月間、こういう状況を全く掴めなかった日米のメディアは、
取材者として失格である。
あらゆる物を疑うことを忘れた者は、真実から遠ざかる
今回の誤報の影響はあと4年ブッシュがホワイトハウスを去る時まで世界の人々に
メディア不信の念を抱かせるだろう。
この事態に関わった者として、恥じ入るばかりである。