コラム〔山本編〕
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vol.17 中国の大学生は今
作  山本 洋左右
薫風の行方は、知らない

風薫る5月、青葉若葉が目に染みるこの季節
中国の大学生は、進学卒業をひと月後に控えて、
その多くが複雑な心境に追い込まれている。
今回は、1600万人に膨れ上がった中国の大学生を
取り巻く現実に目を向けて、
中国の未来と日本を考えてみたいと思う。

借金漬けの4年間


現在、中国全土には、400を超える大学がある。
学生総数1600万人、
つまり1学年に400万人がいて、これから毎年大卒の
肩書きを手に、社会に出てくるのである。
因みに、日本の大学生の総数は、250万人だから、
ここでも人口パワーを見せつけられる思いがする。

大学の授業料は、日本円で平均つき1万円、
生活費が、ほぼ同じ1万円、
子弟一人に掛かる教育費と生活費を合わせると
4年間で最低100万円になる。

北京や上海の中流層の年収が、40〜50万円だから、
子供を大学にやるのは、決して楽ではない。
これが、内陸部や農村部になると、年収が5〜8万円
つまり、ここから子弟を大学にやる場合、
ほぼ100パーセント親が借金を背負う事になる。
この為、大都市の大学では、割と裕福な都市の学生と
地方からの学生の生活スタイルが大きく違ってくる。
自宅から通う都市の学生は、日本の学生と同じように
喫茶店でお喋りをしたり、カラオケを楽しんでいる。
これに対し、親の借金で大学に通う
地方の学生は、支出を抑える為、アルバイト以外は
寮から出ようとしない。
この結果、大学の中でも都市と地方の溝が生まれている。
以前にも紹介したが、
中国に於ける都市と農村の対立差別意識は、
日本人には想像も出来ない程、厳しく
結婚などは、まずあり得ないと言っても過言ではない。

都会の大学の寮の中で、友達も出来ない
地方の学生を、経験した事の無い孤独感が襲っている。
中国では、大学生の死亡原因の1位が自殺である。
事態を重く見た教育省は、全国の大学に
「学生の自殺を防止せよ」との緊急通達を出している。
しかし、自殺の理由は孤独だけではない。
根は、もっと深い所にある。

大学の格付け、コネ、就職難

一流、二流と大学のランクはどの国にもあるが、
中国では上層、中層、下層の3つに格付けされている。
上層は、北京大学、清華大学、復亘大学、交通大学など
北京や上海の有名大学で、
ここで優秀な成績を納めた学生だけが、日本や欧米の
一流企業に就職するチャンスを得られる。
次いで、上層の大学を普通の成績で卒業する学生は、
中小の外資系企業や中国企業への就職を目指す。

今の中国で、豊かな生活を可能にする大学は、
この上層と技術系の中層の一部の大学だけである。
事実、大学生の就職率は、25パーセントに過ぎず
残りの75パーセントは未就職又はより良い就職口を見つける為
大学院へ進学を選択している。

成長が続くと言っても、400万人の大学生を受け入れる規模の
経済には育っていないのが現実である。
こうした厳しい就職戦線に大きな影を落としているのが
党や政府、軍の幹部による子弟のコネ就職である。
今の中国では、幹部の子弟なら、一流大学入学や
超一流企業への就職などは、簡単な事だ。

幹部の家に生まれ、金とコネに恵まれた子弟だけが
何の苦労もせずに、豊かな生活を手に入れてゆく。
借金を背負い、寮から一歩も出ずにいる地方の学生が
「友達もいない、恋人も出来ず、未来の無い事が
分かった今、生きる理由など無い」と遺書を残し
命を絶つた内陸出身の学生
かれは、北京での就職を目指し、親の借金を15年で返済する
意志を持って勉学に励んでいた。

思い出してほしい、4月におきた反日デモを
あの時参加した大学生のほとんどは、
日本企業に就職するチャンスの無い地方出身者で
彼らの恨みは、夢をつかむ為借金して上海に来ながら
誰からも声を掛けられない事への怒りと絶望だった。
あの時、日本企業への就職試験を今年の秋、受ける予定の
上海の裕福な家庭の子弟たちは、家族と車で郊外に
出かけていた。

大学生たちは気付いている。
中国を正しく導くのは、共産党だけだ、と
教えられてきた事が嘘だった事に!
そして、共産党も気付いている。
大学生の怒りが日に日に増している事を。